展示室2-3 ここではボヘミアとドイツで作られたウランガラスを紹介しています。

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(1) アラバスターガラスのゴブレット。モー
  ザー社? 19世紀後半から1900年前後。
  高さ14.7 cm。 
(2) 同左 UV

写真(1)は金彩で葉の模様が描かれ、エナメルで小さな繊細な花々が描かれたゴブレットです。写真ではやや緑色がかったカスタード色に見えますが、実際の色合いは若草のような緑色に近い感じです。上端やステムの部分にも金彩で縁取りがあります。胴部の外形は8角形ですが、内側は円形になっています。注意深くみると、アラバスターガラス特有の細かい白色の斑点がいくつも見られます。ステム部分の中央が太くなっていますが、このような形はビーダーマイヤー時代(1840〜50年ころ)のウランガラスにもよく見られます。モーゼル( Moser )社の古いウランガラスと言われていますが、社名の刻印はなく確かではありません。ちなみに、モーゼル社は、1857年に設立されたチェコのガラス器メーカーで、古くは写真のような金彩・エナメル彩の花瓶などの製品があり、1920年代以降はギリシャの女性戦士をモチーフとした金彩装飾を施したガラス器で有名ですが、現在でも優美で高級なガラス器を作っています。ヨーロッパの国々の王室御用達のガラスメーカーとして知られています。

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(3) クリーマー。ボヘミア、メーカー不詳。
  カットガラス。1850年前後。高さ8.7 cm。 
(4) 同左 UV

  ボヘミアの古いガラスには、ゴブレットやタンブラーはよくありますが、クリーマーはあまり見かけません。このクリーマーは、カットのデザインにボヘミアガラスの特徴が伺えます。また、ハンドルが比較的大きく、高くなっているところもビーダーマイヤー時代のガラス器の特徴と言えます。自然光のもとではやや不透明感のある黄緑色ですが、「アンナグリュン(緑色)」でもなく、「アンナゲルプ(黄色)」でもない独特の色合いです。紫外線(UV)ライトの下で撮った写真は、青白く光っているように見えますが、実際にはぼんやりとくすんだような緑色です。蛍光作用が非常に弱く、ウランガラス特有の緑色の蛍光が出ているかどうか明瞭ではありません。クリーマーから出ている放射線を測定したところ、バックグラウンド(クリーマーを遠ざけたとき)の放射線レベルと比較して、1.35倍高いという結果が再現性よく得られました。通常のウランガラスの場合には、バックグラウンドの10倍程度はありますから、ウランガラスだとしても含有量が非常に少ないものと思われます。

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(5) ワイングラス。ボヘミア、メーカー不詳。
  カットガラス。20世紀前半。高さ16 cm。 
(6) 同左 UV

  写真(5)のワイングラスは、上部のボールの部分がウランガラスで、ステムから下は普通の透明ガラスでできています。ボールの部分は、縦に10本のカットが入れられ、ニードル・エッチングにより多数の曲線を重ね合わせて繊細な模様が描かれています。ステムの部分は6面に面取りされ、ふくらみのところもカットされています。脚の部分はやや分厚く、先端に丸みがあるので型で作られた脚か、手作りではないかと思われます。紫外線ライトを当てると、透明ガラスの部分は紫色の光を反射してか青白く光って見えます。作られたのはおそらく20世紀の前半で、メーカーは不詳ですが、チェコあたりのものでしょう。

    

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(7) 花瓶。チェコ、Ladislab Holba Collection。コバルト被せカットガラス。現代。高さ20 cm。  (8) 同左 UV

  写真(7)は、被せカットガラスの花瓶。チェコ製。高さ20 cm。現在チェコで作られているもので、アンティークではありません。'Ladislav Holba Collection'としてベルギーの店で取り扱われているものです。ボヘミアングラスの伝統的な技術を使い、ウランガラスのカットガラスを現代に復元するのに数年の歳月を要したと言われています。輝くような彩りの美しさは、バカラやヴァルサンランベールのアンティークガラスと比べて少しも遜色ありません。アンナ黄色のウランガラスをコバルト青で被覆し、ボヘミアングラス独特の深く切り込んだカット面から、ウランの黄緑色の蛍光が出ています。無色透明なクリスタルガラスとは一風違った趣を与えています。チェコでは現在もウランガラスが生産されていて、お土産品やアンティークを復元した工芸品などがかなり欧米市場に出回っています。

    

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(9) 花瓶。チェコスロバキア。金浮彫り装飾
  カットガラス。モーゼル社製。
  1920年ころ。高さ13.3 cm。 
(10) 同左 UV

  写真(9)はチェコの有名なガラスメーカーであるモーゼル(Moser)社の花瓶です。高さ13.3 cm。1920年ころのもの。アールデコ様式。自然光のもとでもウランの蛍光がはっきりとわかります。花瓶の底面の中央部は円形に研摩され、'Made in Czecho Slovakia Moser Karlsbad'という銘が刻まれています。花瓶胴部の金で彩色されたギリシャの女性戦士の浮彫り装飾がモーゼル社独特のものです。

 モーゼル社は1857年の創業で、オーストリア皇帝フランツ・ヨーゼフ1世をはじめとして、ヨーロッパの数多くの王室御用達のガラスメーカーです。また万国博覧会へも度々出品し世界的に高い評価を得ました。現在でも格調高いガラス製品を作っていて、この写真とほぼ同一のモデルの花瓶もあります。ただしウランガラスではありません。

 さて、チェコの首都プラハから西へ約100km、ドイツとの国境近くの街カルロヴィ・ヴァリで、1857年、ルードビッヒ・モーゼル(Ludwig Moser,1833〜1916)がモーゼルガラス会社を設立しました。カルロヴィ・ヴァリは600年の歴史を誇るヨーロッパ有数の温泉保養地です。ドイツ名はカールス・バッド(Karlsbad:カールの温泉)といいます。一説によれば、14世紀の神聖ローマ皇帝カレル4世が狩猟の途中で温泉を発見し、この地に自分の名前をつけたと言われています。ベートーベン、モーツァルト、ゲーテなども好んでここを訪れました。カレル4世はプラハのカレル橋を建造したことでも有名です。

 このカレル4世がベネチアと国交を始めたことにより、ベネチアのガラス技術がボヘミアへ伝わったと言われています。ボヘミアでは森の中に多くのガラス工房が作られましたが、ガラスの原料であるソーダ灰が少なかったので、その代わりにブナなどの木を燃やして作った木灰が用いられました。この木灰にはカリウムが多く含まれるため、ボヘミアのガラスは「カリガラス」、あるいは「森林ガラス(Waldglas)」とも呼ばれます。クリスタルガラスと言えば、24%以上の鉛を含む透明なガラスのことです。モーゼル社のガラスは、鉛を用いたクリスタルではありませんが、水晶のように透明なカリウムガラス、「森のクリスタル」といえるでしょう。

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(11) ゴブレット。ボヘミア。ビーダーマイヤ
   ー様式。1850年ころ。高さ14 cm。 
(12) 同左 UV

  写真(11)は、ボヘミア・ビーダーマイヤー様式のゴブレットです。1850年ころのもの。高さ14 cm。ウィーンの骨董店から入手。メーカ不詳。ウランガラスの色は「アンナの緑」と言われる緑色系ウランガラスに入ります。自然光の下でもウランの蛍光がよく分かります。窓際に置くと、光が差し込む側はガラスの内部から出る蛍光により緑色がかって見えますが、反対側は黄色みを帯びて見えます。

ビーダーマイヤー様式と言えば、重量感のあるどっしりとした男性的なデザインが特徴ですが、このゴブレットはどちらかと言えば曲線的な形に繊細な絵付けが施され、女性的な優美さが感じられます。大きさもやや小さめです。上部の口の部分は金彩で縁取りされています。胴体は8面に面取りされ、そのうち4面はエナメルで赤と白の小さな花模様が描かれ、他の4面は金彩でつる草模様が描かれています。金彩の剥離はほとんどなく保存状態は良好です。また、ベースの周囲と底面には多数のカットが切り込まれていて、上部のデザインと調和しています。

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(13) 蓋付き入れ物。チェコスロバキア。
   モーゼル社。1920年ころ。高さ8 cm。 
(14) 同左 UV

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(15) 蓋上面の浮彫り。蓋の直径約7cm。
   自然光の下でも蛍光がわかる。 

  写真(13)は、写真(9)と同様、チェコスロバキアのモーゼル社製の蓋付き入れ物です。高さは約8cm。1920年頃のもの。モーゼル社の銘はありませんが、この独特の浮き彫り装飾は間違いなくモーゼル社のものです。蓋と胴体下部は14面にカットされています。胴の部分には槍や盾を持った古代ギリシャの女性戦士が描かれています。4人の戦士でひとつのパターンを構成し、5パターンで一周しています。蓋の上面には、写真(15)のように、ギリシャ神話の女神アテナが描かれています。アテナは右手に持ったコンパスで地球儀を指し、左手に槍を持ち、盾で体を防いでいます。また傍にはフクロウや、リラ(Lyre)と呼ばれる古代ギリシャの竪琴も描かれています。

ギリシャ神話におけるオリンポス12神の1神であるアテナは、戦略と知恵と工芸をつかさどる女神で、フクロウを自己の象徴としました。また、古代ギリシャの城塞都市の守護神だったと考えられています。アテナは父ゼウスの額(ひたい)から武装した姿で飛び出したとされ、ゼウスから“アイギス”という盾を与えられました。アイギスはあらゆる邪悪や災厄を払いのける魔除けの能力を持つ盾でした。ちなみに、アイギスの英語読みはイージス(aegis)と言います。つまり、“イージス艦”は、女神アテナの盾にあやかって名付けられた“盾(イージス)”という防御システムを備えた艦船というわけですね。

 

(16) ゴブレット。チェコ製。ビーダーマイヤ
   ー風の現代物。2008年。
   
高さ15.3 cm。 

(17) 同左 UV

  写真(16)は、チェコ製のゴブレットです。ビーダーマイヤー風に作られた現代物です。製作年は2008年。高さ15.3 cm。製作者はPavel Hosek。自然光の下でもウランの蛍光がよく分かります。上部の口の部分は金彩で縁取りされています。胴体は8面に面取りされ、金彩で装飾的な細かい模様が描かれています。裏面には作者のサインが入っています。ビーダーマイヤー様式の特徴である重量感あるデザイン、カットや金彩の高度なテクニック、、、ビーダーマイヤーの"本物"にも勝る非常に素晴らしい出来映えです。

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(18) ビールジョッキ。おそらくチェコ製。
   メーカ不詳。年代不詳。
高さ11 cm。 

(19) 同左 UV

 

  写真(18)は、アンナゲルプ(緑がかった黄色)系のウランガラスで作られたビールジョッキです。6個組の一つ。表面に施されたボヘミア風カットの特徴から、おそらくチェコ製と思われます。製作年ははっきりわかりません。ボヘミア風カットされたウランガラスのビールジョッキというのはちょっと珍しいのではないかと思います。ガラスの色合いやデザインからすると、意外に新しいものかもしれません。高さは約11 cm、重さは約450 g。 500 ccのビールがちょうど注げるような大きさになっています。

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(20) タンブラー。おそらくドイツ製。
   クリソプレイズ(緑玉髄)ガラス。   
メーカ不詳。19世紀中頃。高さ10 cm。 

(21) 同左 UV

  写真(20)は、アラバスターガラスの一種で、クリソプレイズ(Chrysoprase : 緑玉髄)ガラスと呼ばれるウランガラスのタンブラーです。高さは約10 cm。クリソプレイズガラスは、ボヘミアのハラッハ伯爵ガラス工房で初めて作られたビーダーマイヤー (Biedermeier) 時代のウランガラスですが、ドイツとチェコとの国境沿いに広がるバイエルンの森 (Bayerischer Wald) にあるシャハテンバッハ (Schachtenbach) でも、19世紀なかごろにクリソプレイズガラスが作られていたそうです。写真のタンブラーと同じような色合いと形をしたクリソプレイズガラスは、現在でもドイツの骨董屋さんで見ることができます。したがって、このタンブラーも、シャハテンバッハあるいはボヘミアで、1845年ころに作られたビーダーマイヤーガラスかもしれません。なお、このタンブラーの胴には、Z 、A、Fの3つのアルファベットが刻まれていますが、意味はよくわかりません。クリソプレイズガラスは展示室2-2 写真(12)にもあります。

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(22) ワイングラス。高さ16.5cm。
   Villeroy & Boch社(ドイツ)
。1900年頃。 

(23) 同左 UV

  写真(22)は、ビレロイ・ボッホ(Villeroy & Boch)社製のワイングラスで、''Olaf ''という名称がついています。ビレロイ・ボッホ社は、欧州で最も歴史ある陶磁器ブランドのひとつで、1748年に創業、1836年にボッホとビレロイが合併してビレロイ・ボッホ社が設立され、現在に至っています。1848年にドイツのワダガッセンにガラス工場が設立されています。この写真のグラスは、上の部分がウランガラスでできており、繊細なグラビュールが施されています。また、ステムの部分は中空になっていて、表面は6面のカットが施されています。

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